いつかの日記

夜、車を運転していた。開けた窓から入ってくる夏草と土の混じった匂いを嗅ぐと泣きたくなってしまった。

小さい頃、外で遊んでいた時も、土方仕事から帰ってきた父の作業着やカバンからも嗅いだ匂いだからだ。あの時仕事に行く父や帰ってくる父、そう父の事がヒーローに思えていた。

しかし、都会の私立高校に入ってそれは変わってしまった。周囲はみんなプチブルというのか中途半端な金持ちで、そんななか土木作業員の父を恥ずかしく思い、建設会社で働いているというあながち嘘ではない誤魔化し方をしていた。

今思うと中退で土木作業員で、金持ちの親族から見下されながらも、子供を東京の私立にまでいかせて、本当にすごいなと思う。(世の中は貧乏人をうまくいってない人と判断してしまう)

結局父や母と暮らした家で、金持ちの親族から犯罪の被害にあったことから、今は誰にも住所を教えず私一人で暮らしている。

入居してから何人も隣人は変わった。生活保護を受けながら娘からのDVに逃げてきた母親、逆に友達から逃げるためにいきなり引っ越した若い男、そして、今僕の隣の部屋には、大学を出たばかりの女の子が住んでいる。

その子は引っ越したばかりの時ははよく両親がきていたし、今も土日は車がないからおそらく実家に帰っているのだろう。

結局、自分にはそんな風に帰れる状況の実家もなければ、家事のハウツーを教えてくれる人もいない。今月は掃除で窓を割って7万はらったし、今日はネットで簡単な詐欺に簡単に引っかかって、3千円払ったし、ろくな生活をしていない気がする。

今日夏草の匂いや土の匂いを嗅いで、思ったのは今こんなサマを父に見せられるのだろうか?という事だった。

今67歳の父は何をしているのだろう。

唯一優しくしてくれた親族は、父が腕の怪我をして仕事を辞めた事、今職を探している事。そしてその親族も衰えを感じ体に自信を無くし、先を憂いている事などを電話で教えてくれた。

別に親は偉大ですとか、育ちのいい人が言うようなセリフを言うつもりもないし、公の場で極私的な事を書きたくもない。

ただこんな一人の夏をあと何回過ごさなければいけないのだろう‥

親が成人した子供を心配し続けるように、僕も両親を心配しづづけている。